暗い冷たい悲しい幸せ

シアワセ(会社員)の日記

新しい星座

女手一つで俺を育ててくれた母親が癌で死んで母親の妹夫婦に引き取られたのが高校一年のときで,それまであまり会ってしゃべる機会もなかったなかったし札幌から離れた釧路っていう環境にもあんまり慣れてなくて悲しみと混乱と緊張が俺をぐるぐるかき混ぜてた最初の一ヶ月目,編入先の学校から家に帰ってくると珍しく叔母が家にいる.

叔母夫婦は共働きで叔父さんは食品会社の営業,叔母さんはペットサロンのパートみたいなことをしてて学校から帰る時間にはまだいないことが多かったけど今日は早いのかと思って手を洗って制服から部屋着に着替えて居間で今日出された課題のチェックとかしてると叔母さんが「どう?仕事進んでる?」と俺に聞く.

仕事…?と一瞬戸惑うけどすぐに思いだす.こっちの家に来てから一週間目くらいに叔母さんにそんなことを言われたのだ.

『こっちだと田舎だし結構暇だと思うから私の仕事良かったら手伝ってくれないかな?新しい星座を見つけてほしいんだけど….』

その時はあんまりにも唐突で叔母さんの仕事との関連性とかもなさそうだし俺も別に星とか興味なかったからなんでそんなこと頼まれたのか意味不明だけどなんとなく断る理由もなくてそれに断ったら居心地が悪くなってしまいそうだったからやりますってとりあえず言ったのだった.

「あーぼちぼちですね…」と俺は答えるが当然まだノータッチだった.なにしろ新しいクラスとか遅れてる勉強とかでほんと手いっぱいだったのだ.部活とかも迷ってたし田舎だから暇とか言う感覚も全然ピンときてなかったし.

「そっかwまぁ期限とか全然ないから適当にやってもらっていいから」と叔母が言う.

仕事なんてもんを軽々しく受けて良かったのだろうか.

もしかしたら叔母は俺を試しているのかもしれない.信頼関係なんてもんが全然ないから.母親は生前俺のことを叔母に話していたんだろうか?どんな人間で,どんなことが好きで,どんなことがダメなのかとか….

いや話していたのなら新しい星座を見つけてなんて言ってこないだろう.何しろ俺の趣味は日ハムの中継を見ながらスコアをつけてパソコンで保存するとかそういうしょうもないことだったしバイトだってやったことないから仕事っていったい何なのかもよくわからない.

しかしやるといった以上はやらなければならない.成し遂げることができれば俺は仕事をできることが証明できる.証明できれば信頼が築ける.そうすればより良い関係によい良い環境になるかもしれない.叔母夫婦が引き取ってくれなければ俺はずっと一人だったのだ.もしかしたら死んじゃっていたりしたかもしれない...だから感謝しているし,なにか恩も返したいと思う.

“仕事”について聞きたいことは色々あるけれど.とりあえず外に出て星でも見てみるかと思う.どの星がどの星座かなんて一つもわからないけど,釧路は札幌よりも星が良く見えるのだ.